激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 部屋番号を聞き、エレベーターに乗ってドアの前まで連れて行く。
 エレベーターも部屋の鍵も顔認証だった。

 玄関を開けて彼と中に入る。
 すぐに鍵がかかる音がした。オートロックなのだろう。
 彼は崩れるように座り込んだ。
 紫緒は彼の背を軽く叩いた。

「ほら、立って、部屋に行って」
「ん……連れてって」
 甘えるように手を出すから、紫緒はぎゅっとつかんで立たせた。

 彼の言う部屋のドアを開け、入る。
彼をベッドに寝かせ、リモコンの場所を聞いてエアコンをつける。

「じゃ、私は帰るからね」
「待って」
 酔っ払いとは思えない素早さで、その手をつかまれる。

「行かないで」
 潤んだ瞳で見上げられ、紫緒の胸がどきんと鳴った。

「なにもしないからここにいて」
 すがるような目だった。
 捨てられた子犬のようにうるうると見られて、紫緒は目をそらせなくなった。

「でも……」
 困惑のうちにも彼のまぶたはとろんと下がっていく。
 紫緒をつかんでいた手から力が抜け、ぱたんと落ちた。

「寝ちゃった?」
 返事はなく、すーすーと寝息が聞こえてきた。
 紫緒は彼にタオルケットをかけ、部屋を出た。
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