激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
***
今日もまた帰りが遅い。遅すぎるのではないか。
千暁は明かりのつかない離れを見てやきもきしていた。
どこへ、誰と出掛けているのか。気になって仕方がない。
そんな自分が嫌で、邪心を捨てるべく、木刀を持って庭に出る。
神社で生まれ育ち、人とは少し違う、制約の多い道を歩んできた。
その上、子供のころから神楽だの古武道だのを教えられ、友達と遊ぶ時間は少なかった。
父は強制はしないとは言ったものの、跡を継いでほしいとも言っていた。
子供のころは漠然と神社の跡を継ぐのと思っていた。
中学生になると迷いが出始め、高校生のころには本気で悩んだ。
その迷いを晴らしてくれたのが、紫緒だった。
彼女は自分をまったく覚えていないようだが、それでもあのときに渡した水晶を持っていてくれたのがうれしかった。
彼女は高校生だった自分を、その装束から神主だと思ったらしい。実際はただ手伝いをしていただけだ。
小学生の彼女が元気にお参りに来る姿は、いつしか彼の癒しになった。
だが、成長とともに彼女は神社に来なくなった。
久しぶりに神社に来た彼女は成人式のあとらしく、振袖を着て友達とお参りしていた。
ずいぶんときれいになった彼女に見違えた。
その姿が焼きついて、彼の脳裏から離れなくなった。