激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 千暁は木刀を振るう。
 熱帯夜の気温に、すぐに汗が浮いて流れた。
 人の気配がして振り向くと、紫緒が立っていた。

「こんばんは。また練習のお邪魔してすみません」
 紫緒が頭を下げる。

「……こんばんは」
 言いたいことをすべての見込み、千暁はそれだけを言った。

「毎日、大変ですね」
 紫緒は少し落ち込んだ様子を見せた。

「どうされました?」
「当たり前ですけど、みんな努力してるんですよね。私、このまま巫女でいていいんでしょうか。舞もきちんとできなくて」

「始まったばかりじゃないですか。実際、来てくださって助かってますよ」
「ありがとうございます」
 紫緒が礼を言う。本気にしていないことがわかるような礼だった。

「もう充分に頑張っておられます。ご無理なさいませんよう」
 紫緒は泣きそうに笑顔を見せた。
 千暁の胸が苦しくしめつけられた。

 抱きしめたい衝動にかられ、木刀をぎゅっと握りしめて耐えた。

「ありがとうございます。おやすみなさい」
 紫緒はまた頭を下げ、離れに帰っていく。
 千暁は黙ってそれを見送り、また木刀を振るった。
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