激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「一人前になれる気がしません」
「宮司のOKが出るまで練習してね。誰かいれば代わりに書くけど、神職も私たちもいないときは御朱印帳だけ預かって、待ってもらってね。宮司も権宮司も手があけば書いてくれるから。でも権宮司がいると女性が寄って来るのよね。――って、噂をすれば」

 いつかの黒縁眼鏡の女性が、境内を横切っていくのが見えた。
「あの人も一歩間違えればストーカーよねえ。恋人としては心配よね」
 紗苗が言い、紫緒はなにも言えなかった。

 自分が千暁の恋人である情報は、まだ否定していない。
 その問題にどう決着をつけるのか、紫緒にはわからない。

 どうするのか――いや、それ以前に自分はどうしたいのだろう。
 彼女なら迷わないのだろうか。まっすぐに千暁を求めるのだろうか。
 わからなくて、紫緒はじっと女性を見つめた。



 数日は平和になにごともなく過ぎた。
 仕事の合間に、彩陽に舞の稽古をつけてもらう。

 自分ではできているつもりでも、動画に撮ってもらって確認すると、ひどい出来上がりだった。

「動きをもっと丁寧に繊細に、指先まで気を配って」
 言われて指先を気を付けると、ほかがおろそかになってしまう。直したいところをつい見てしまい、目線はこっち、と注意されることもしばしばだ。

「疲れた顔しないで。穏やかに。作り笑いは怖いからやめて」
 鬼だ、と紫緒は内心で思う。

 練習を終えるとくたくたになった。
 それでも、みんな努力してるんだから、と家でも舞の練習をした。

 そのせいでミカから来たメッセージへの返信が遅くなり、ミカに心配されてしまった。
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