激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 千暁や彩陽に恩を返したい。みんなのために役に立ちたい。そう思っていたのだが、それを答えるのはなんだか違う気がした。

「まずは楽しんでよ。舞を舞うの、楽しいよ。私たちが楽しむから神様も楽しんでくれるんだと思う。巫女舞って結局は神楽よ。神が楽しむって書いて神楽」
 そんな観点で考えたことがなかったから、紫緒は目をぱちくりさせた。

「美しく舞うより心を込めるのが大事じゃない?」
「まだそこまで到達できてないです」
 舞にはそれぞれ意味がある。その意味を自分の中でかみ砕くよりも、今は見た目にこだわってしまう。

「美しい形を決めてあるから振り付けとか順番が決まってるわけで、それを覚えるのが優先ですね。でも私も楽しんでほしいと思います」
「頑張ります」
 紗苗と絵麻に励まされ、紫緒は自分に気合を入れた。



 結婚式は神社の人が総出で準備する。
 普段は神社に来ない朋代と美津子も裏方として手伝ってくれる。

 結婚式ならば関係者しか入場できないだろう、ということで巫女舞は彩陽と紗苗が担当した。
 絵麻がサポートにまわり、紫緒は授与所で待機だ。

 どーん、どーん、と太鼓の音が聞こえてきた。
 始まった、と紫緒は授与所から拝殿を覗く。が、位置的にまったく見えなかった。

 いつか自分も誰かの結婚式で舞を舞うのだろうか。
 そう思ったのに、頭に浮かんだのは花婿の衣装を着た千暁と白無垢姿の自分で、慌てて首を振った。

 千暁さんが結婚なんて言うからだ。
 心の中で文句を言う。
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