激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 今頃は千暁は白い(ほう)と袴の斎服を着て(えい)の伸びた冠をつけて儀式を執り行っているはずだ。ぱっと見は平安貴族の男性のようだった。

 暑いせいか参拝客も少なく、紫緒は御朱印の練習をしていた。
 ふと顔を上げると、一人の男性が拝殿に近付くのが見えた。

 スマホを取り出し、拝殿の様子を映し始める。
 紫緒は眉を寄せてそれを見た。

 なんで撮影なんて?
 彼は普段着だし、結婚式の関係者ではないはず。

 不安はいっきに紫緒の心を支配した。
 筆を置くと、すぐさま授与所を出る。
「申し訳ございません、儀式の撮影はご遠慮いたいだいております」
 声をかけると、男は怒ったように振り返った。

「別に邪魔してないじゃないか」
「神聖な儀式ですので」
 怖気づく自分を踏みとどまらさせ、紫緒は言う。

 神社や寺は神聖な場所とされているから、撮影禁止となっている場合が多い。境内はOKでも内部や儀式の撮影は禁止という場合もある。

「お前んとこの神様、心狭すぎね?」
 心の狭い広いの問題ではないと思う。
 だが、紫緒はそれをうまく説明できない。

「ストーカーする人に言われたくないです」
 ぽろっと口から出てしまい、慌てて口をつぐんだ。

「ストーカーじゃねえよ!」
 叫び、男は怒ったように背を向けて歩き出した。
< 113 / 241 >

この作品をシェア

pagetop