激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 紫緒はそれを追うことができなかった。
 怒鳴られた恐怖に、足がすくんで動けなくなっていた。



 結婚式が終わって紗苗が授与所に来ると、紫緒はすぐにさきほどのことを相談した。
「それは宮司か権宮司に言ったほうがいいね。早いほうがいいよ」
 そう言われて、拝殿に行く。

 千暁が片付けをしているのが見えた。嘉則は見当たらない。
「すみません、気になることがあったんですが」
「なんでしょう」
「ここではちょっと」

 同じく片付けをしている彩陽がいるので、紫緒はそう言った。
「社務所で聞きましょう」
 千暁に連れられ、紫緒は社務所に向かった。

 社務所に着くと、紫緒はすぐに不審な男のことを報告した。
 千暁は顔を険しくしてそれを聞いた。

 すぐに防犯カメラの映像を確認し、人物を特定する。
「あとはこちらで対応します。ありがとうございました」
 千暁に言われ、社務所を出る。
 授与所に戻ってからも落ち着かなかった。



 翌日の朝礼で、巫女全員に防犯ベルが配られた。
 不審者に遭遇したらすぐに鳴らすように、とのことだった。

 白いボディのそれを、懐に隠すように差し入れる。
 とっさのときに取り出せるように、なんども確認した。
< 114 / 241 >

この作品をシェア

pagetop