激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「昨日、不審な人物が確認されたようですが、おそらくは参拝された方が儀式に興味をもって撮影されただけだと思われます」
 嘉則が言い、紫緒はほっと息をついた。

「怪しい人がいた場合、みなさんも怖いでしょうから、自分で声をかけるのではなく、私たちに知らせてください。間違っていても構いません」

 自分で声をかけるのはよくなかっただろうか。だが、あのときは人が出払っていた。
 紫緒は彩陽と千暁を見る。
 彩陽は固い表情で、千暁の穏やかの笑みにも緊張が漂っているように見えた。



 今日も無事に終わりそう。
 五時近くなり、紫緒は授与所の片付けを始めた。
 授与所の外に出していたお守りを窓の中に引き入れ、窓を閉める。

 鍵をかけて外に出ると、木の陰に隠れるように佇む男性を見つけた。

 やけに髪が短かった。丸刈りのようだ。黒いTシャツにジーンズをはいている。拝殿の様子を窺うように見ていて、参拝者にしてはなんだか様子がおかしかった。

 平日で、周囲にはほかに人はいない。
 また違ってたらどうしよう。
 間違えてもいいからとは言われたが、昨日の今日でまた間違えるのは、なんだか嫌だった。

 しばらく見ていると、男は境内の外へ向かって歩き出した。
 やっぱり違うんだ。
 紫緒はほっとして更衣室へ向かった。



 更衣室で着替えたのち、タイムカードを切るために社務所に向かった。
 途中、青い顔をした彩陽とすれ違う。
< 115 / 241 >

この作品をシェア

pagetop