激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 気になったが、聞くこともできずに社務所に入る。
 そこには頭を抱えて事務机に向かっている千暁がいた。

「お疲れ様です」
「お疲れ様」
 千暁は笑顔を作って答える。が、疲労が色濃く出ていた。

 タイムカードを切って出ようとして、立ち止まる。
 逡巡ののち、紫緒は振り返る。

「なにかあったんですか?」
「大したことではありません」
「ぜんぜんそうは見えないです」
 紫緒はそう言って、千暁の隣に座った。

「以前は私が話を聞いていただきました。今度は私が聞きます」
「そういうわけには」

「以前、おっしゃいましたよね。話すだけでも楽になるかも、って。私じゃダメですか? 私、役に立ちたいんです」
 紫緒が言うと、千暁は穏やかな笑みを浮かべる。その笑顔に、紫緒は壁を感じた。

「すでに役に立ってくださってます。ですから大丈夫です」
「……すみません」
 謝って、紫緒は立ち上がった。

 いつも千暁が優しいから、自分は勘違いしていたようだ。
 所詮、他人だ。
 涙が浮かびそうになり、紫緒は必死にそれをこらえた。
< 116 / 241 >

この作品をシェア

pagetop