激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 男は無言で紫緒に近付いて来た。
 嘘、なんで!?
 紫緒はとっさにどうしたらいいのかわからない。
 防犯ベルを出そうとして、巫女装束と一緒にしまってしまったことを思い出した。

「お前、なんで俺を見てるんだよ」
「私、ここで巫女をしております。なにかお困りなのかと思いまして」

「彩陽っているだろ? あいつ、俺の女なんだけどさあ」
 やっぱりこいつだ!
 紫緒は思わずあとじさる。

「最近、出て来ないから心配でさ。呼んでくれよ」
「彩陽さんは引っ越しました」
 とっさに、そう言った。

「嘘つくな! あいつが俺を置いていくわけねーんだよ! 引っ越しのトラックが来てないのも知ってるんだからな!」
 紫緒の顔がひきつった。

「俺はあいつに裏切られた。二度目の裏切りは許さない」
「……なにがあったんですか?」

「あいつのせいで俺は刑務所に入った。あいつが警察に俺を売ったんだ。ほかに女がいることくらい、許すべきだろ」
 言いながら、男はナイフを出した。傾き始めた日に、刃がきらりと光る。

 刑務所? ほかの女? ナイフ!?
 紫緒は混乱した。情報が多過ぎて脳の処理が追いつかない。
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