激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「言え! 彩陽はどこだ!」
「知りません」
 おそらく家だろうが、言えるはずもない。

「お前が離れに住んでるのも知ってるんだ。お前は身内同然だろ。だったら知ってるだろ」
 脅すようにナイフを振り、男が言う。

 なんとか家から引き離したい。
 紫緒はごくりと唾を飲み込んだ。

「案内します。だからナイフをしまってください」
 男はナイフをしまうことなく、口だけでにやりと笑った。



 紫緒は男の前を歩き、鳥居へと向かった。
 が、ふと足を止める。

「なんで止まるんだ」

 男の問いに、紫緒は答えられない。

 なんとか彩陽から遠ざけようとしたが、このままではナイフを持った男を外に出すことになる。それでは無関係な人が巻き込まれてしまうかもしれない。
 いや、このまま誰かに見られて通報してもらったほうがいいだろうか。

「あの……」
 紫緒は振り向いた。
 男は怒りをあらわにナイフを突き出している。
 とにかく時間を稼がないと。

「住所を忘れてしまって」
「舐めてんのか!」

「そのままだと見られた人に通報されます。ナイフをしまっていただけませんか」
「お前、逃げようとしてるだろ」

「いいえ!」
 紫緒は否定する。
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