激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 どう諫めたらいいんだろう。自分にはうまくできそうもない。

 足が震え始めた。
 男を見る紫緒の視界の隅に、神主の装束が映った。
 千暁だ、とすぐにわかった。

 男はナイフを持っている。千暁はそれを知らない。迂闊に近付いて千暁に危害を加えられたくない。

「案内しますから」
 紫緒は悟られないように、男に背を向けて歩き出した。

 だが。

「待ちなさい!」
 千暁が声を上げ、男が振り返った。

「ち!」
 男が舌打ちして、逃げ出す。

 千暁は袴姿とは思えない速度で追いつき、男に手を伸ばす。
 次の瞬間、男が地面にはいつくばっていた。

「え!?」
 あまりに一瞬すぎて、紫緒は目をしばたいた。

「警察を呼んでください」
 紫緒は慌ててスマホで一一〇番通報する。

「離せ! くそが!」
「銃刀法違反か脅迫か。どちらにしろ現行犯です」
 千暁は冷静に男に告げる。
 男がどれだけ暴れても、千暁は涼しい顔で押さえ続けていた。
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