激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 ぽろりと雫がこぼれた瞬間、ふわりと白いものに包まれた。
 千暁に抱きしめられた、と気付いた直後、ぶわっと顔が赤くなる。

「恩返しとか考えなくてもいいのですよ。あなたの気持ちを大切にしてください」
「……はい」

 紫緒はそれだけしか答えられなかった。
 千暁の腕の中が温かくて、紫緒の胸はただただ熱くなる一方だった。

***

 和久田優奈は仕事帰りに神社に寄ることにした。

 仕事でこちらに引っ越して来たのだが、あんなイケメンの神主がいるなんて、当たりの神社だ。
 だが、優奈が行くときにいるとは限らないのがマイナスポイントだ。

 優奈は地元ではかわいいと評判だったが、当然だと思っていた。
 かわいい自分がファッションにもメイクにも気を配っている。当たり前の結果だ。

 しょっちゅう男どもから声をかけられた。
 だが、その中の誰よりもあの神主がいい。爽やかで涼やかで、ああいう男こそ自分にふさわしい。
 千暁に比べたらほかの男なんてみんな、へのへのもへじだ。

 もう遅いけど、いるかな。
 鳥居の中を覗き、信じられないものを見た。

 自分の千暁が女性を抱きしめている。女の顔は見えなかった。
 優奈はわなわなと震えた。
 こんなこと、許せるはずがなかった。

 どうにかしないと。
 その脳裏に、岬絵麻の姿が浮かぶ。
 優奈は女をにらみつけ、思考を巡らせた。
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