激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「呪いの人形ってやつ」
「そんなの本当にあるの!?」

「たいてい思い込みだと思うけど。怖いよねえ、捨てても捨てても戻って来るとか、髪が伸びるとか。今回の人形は、じっと見て来るから怖いんだって」
「それは気のせいなのでは」

「だから思い込みよね」
 紗苗は笑った。
 でも依頼主は笑い事じゃないんだろうなあ、と紫緒は青い空を見る。
 呪いには不似合いな眩しい太陽が輝いていた。



 御祈祷が終わったころに、紫緒は片付けに行く。
 御祈祷の依頼をしたと思われる五十代らしき女性がまだいて、千暁と話し込んでいた。

 女性の隣には日本人形がある。だが、普通の人形に見えた。邪気などまったく感じない。

「介護をしてきた母の形見の人形なんです。亡くなったあとも飾っていたんですけど、ずっと私を見ているんです」
「ずっと介護をなさってたんですね。大変だったでしょう」

「体が動かなくていらいらするのか、八つ当たりをされることもよくあって」
 女性は泣きながら語る。

「でも母だから、頑張って看ていたんです。至らないところもあったと思います。母はそれを恨んで人形に乗り移ったんだと思うんです」
 うう、と女性が嗚咽を漏らす。

 入って良いのかわからず、紫緒は入口で立ち尽くした。

「頑張ったけど至らないところがあったとお思いなのですね」
 千暁が確認のように言うと、女性は深く頷き、さらに涙を零した。

 バックトラッキングだ、と、紫緒は大学の一般教養で受けた心理学を思い出した。
< 126 / 241 >

この作品をシェア

pagetop