激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 相手が言った言葉を繰り返すと、きちんと話を聞いてくれている、もっと話したいと思うようになるという。

 千暁はそうやって参拝者の心を聞いて、気持ちを晴らしてあげているのだろう。
 邪魔しないように、紫緒はそっとその場を離れた。



 時間を置いてまた拝殿へ行くと、女性が千暁にお礼を言っているところだった。
「ありがとうございます。おかげですっきりしました」
「お役に立てたようで、よろしゅうございました」
 千暁は穏やかな笑みで答える。

 女性は人形を大切そうに抱え、笑顔でなんどもお辞儀をして去っていった。
 心なしか、人形も微笑んでいるように見えた。

 その姿を見送り、千暁は紫緒に向き直った。
 紫緒はどきっとした。
 昨日、抱きしめられてから、二人になるのは初めてだ。

「お待たせして申し訳ございません」
 千暁はまったく動揺を見せずに言う。
 自分だけがどきどきしているなんて、と紫緒は落胆した。

「あの方、大丈夫だったんですか?」
「ええ。大事な人形だそうですからお手元で大事になさってくださいとお返ししました」

「良かったです。呪いの人形なんてないですよね?」
「私は見たことがありませんが、大学時代の同期は、実家の神社に変な人形が来た話をしてくれましたよ」

「どんな人形なんですか?」
 怖い話は苦手だが、ここまで聞いたら最後まで聞きたくなってしまう。
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