激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「供養で預かった人形ですけどね。預かってから毎晩「帰りたい」としくしく泣いていたそうです。お祓いをしたら静かになったそうですよ」
「——!!」
 紫緒の顔がひきつって、千暁がくすっと笑った。

「物には魂が宿ることもあるそうです。その人形は愛されていたのでしょうね。あまり怖くなくて申し訳ありません」
「怖い話を期待したわけじゃないです」
 紫緒はそれでも怖くて、なんとか話を変えようとする。

「大学って、どちらなんですか?」
「三重の大学へ行きました。神職を目指すための大学は全国に二つしかないんですよ」
 千暁は大学の名前を上げる。紫緒はどちらも知らなかった。

「三重にいたときには伊勢神宮にも何回も行きました」
「いいですね。私は一回も行ったことなくて」

「機会がありましたらぜひ。いいところですよ。近くには月読宮も倭姫宮も猿田彦神社もあり、夫婦岩のある二見興玉神社があります。伊勢神宮の別宮とされる瀧原宮にも行きました。あちらも自然豊かないいところです。「伊勢に七度、熊野へ三度」と言われているので、熊野三山にも行ったんですよ。友達と出雲大社に行ったこともあって――」
 千暁ははっとしたように口をつぐんだ。

「申し訳ありません。つい」
 照れたように笑みを浮かべるから、紫緒はなんだかうれしくなった。ちょっとは素の彼が見れたようで。

「今度ゆっくり聞かせてください」
「ぜひ」
 千暁は嬉しそうに目を細め、だから紫緒もにっこりと笑みを返した。
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