激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「陸里さん」
 名前をよばれて、心臓が止まりそうになった。

「はい」
 振り返ると、怒ったような顔の彩陽がいた。
 まるで気持ちがバレて怒られているかのようで、紫緒はさらに動揺した。
 つかつかと近寄った彩陽は、ぐい、と手を突き出す。

「これ、あげる。あまったから。捨てるのもったいないから仕方なくよ」
「ありがとうございます」
 そっぽを向いた彩陽に大福を差し出され、受け取った。

「あら、彩陽、さっきの大福、紫緒さんにあげるために買って来たの?」
 急に現れた朋代に、彩陽はびくっと体を震わせた。

「お母さん、なんでここにいるの!」
 朋代はそれには答えず、くすくすと笑う。

「この子、休憩時間に慌てて買いに行ってたのよ。お気にいりのお店にね、一日十個限定のナガノパープル大福」
 確か、と紫緒は思い出す。ナガノパープルはシャインマスカットと並ぶおいしくて高い葡萄だ。

「私が食べたかっただけだし、二つ買ったほうが安いから仕方なく!」
 彩陽は逃げるように立ち去った。

「ごめんなさいね、昔っから姉弟そろって素直じゃなくて。きっとストーカーのお詫びをしたかったんだと思うの」

 確かに、彩陽の優しさはいつも遠回りをしているように思える。だが、千暁はわかりやすく優しくて、素直じゃないとは思えない。
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