激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「仲良く話をしてたところだからさあ」
 追い払うように優奈が言う。
 絵麻は黙って頷く。紫緒はもうそれ以上はなにも言えなかった。

 会釈をしてその場を離れる。
 だが、絵麻の暗い顔が気になって仕方がなかった。



 自宅で舞の稽古をしていた紫緒は、時計を見て大きく息をついた。
 もう十二時だ。頑張り過ぎだ、と紗苗に言われるだろうか。
 コツをつかめそうな気がして、あと少し、あと少しとやっていたらこんな時間だ。

 カーテンを開けると、今夜も月がきれいだった。
 この月光で、自分の心も清められればいいのに。

 透き通る光はただ地上にそそぐだけで、まったく紫緒の気持ちが変わる様子がない。
 部屋に戻ると、スマホのメッセージの着信が光っていた。

 ミカからだった。着信自体は三時間も前だった。
『今日は和食を食べたよ。おいしかった。君の手料理、食べてみたいな』
 邪気のなさそうなメッセージだ。いつもなら和むのに、今日だけは胸がちくんと痛んだ。



 翌日の土曜日は人が多くて紫緒はくたくたになるまで働いた。
「ここはクーラーがあるからいいけど、エアコンのない神社だと地獄よ」
 紗苗の言葉に、紫緒は慄然とした。今の時代にエアコンなしなんて考えられない。

「でもね、ここも新年は窓開けっ放しでまるで八寒地獄よ」
 紗苗は自分を抱きしめるようにして言った。地獄の概念は仏教のものだが、通常の会話では普通にそういう言葉も出て来る。
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