激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「新年の三が日は一般の参拝客で忙しくて、四日をすぎると企業が団体で御祈祷に来るから、一月はずっと忙しいの」
「覚悟しておきます」

 それまでにはもっと仕事に慣れているだろうか。年末年始は深夜の出勤もあるというから、慣れていたとしてもいろいろと大変だろう。

 五時になると紫緒は拝殿に言った。
 拝殿の、外に向かって開かれた扉を閉める。

 振り返ると、拝殿内に女性の人影を見つけて首をかしげる。
 すべての御祈祷は終了しており、一般人はいないはずだった。

 その人物はきょろきょろと周囲を見回し、巫女や神職しか入れないスペースへ入っていく。
「そこは立入禁止です!」
 紫緒は思わず声を上げていた。

 女が振り返る。
 優奈だった。

「千暁に会いに来たのよ。隠さないで」
 言って、彼女はさらに中に入ろうとする。

「とにかく、出てください」
 神様に失礼になってはいけない。巫女として、それは厳しく言われていた。

 彼女は紫緒をじろじろと見て顔をしかめる。
「あんた、千暁のなんなの? なんであの家に住んでるの?」
 怒りの声に、紫緒は言葉に詰まった。

 彼女は千暁にとっては迷惑な存在のはずだ。
 ここで自分が恋人と答えた方が、彼女はあきらめてくれるのだろうか。

 だが、下手なことを答えて千暁に迷惑をかけたくなかった。
 どういう言い方をするのが正解なのだろうか。
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