激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 防犯ベルはもう持っていない。ストーカーがつかまったからもういらないと思っていた。
 優奈は追い掛け、紫緒の髪を掴んだ。後ろにひっぱられ、紫緒は転ぶ。

「痛い――!」
 優奈は髪を引っ張るのをやめない。
「暴れるなっての! ケガしたいの!?」
 鋏を構え、優奈は叫ぶ。

 紫緒は必死にもがいた。彼女の警告はすべて自分の命をすみやかに奪うためのものだとしか思えない。

「やめて!」
「動くな!」
 優奈が鋏を振り上げたときだった。

「紫緒さん!?」
 叫び声に目を向けると、神主装束の千暁が走ってくるのが見えた。

「千暁!」
 優奈が喜びに声を上げ、次いではっとしたように動きを止めた。

「なにをしているんですか!」
 千暁の咎めに、優奈は紫緒を解放した。
 這うように移動する紫緒を抱き起し、千暁は彼女の前に出た。

「髪を切ってあげようとしただけよ」
 ばつが悪そうに、優奈は言う。

「本人の承諾なしに髪を切ることは暴行罪ですよ」
「そんなことしてないし! ねえ、私たち友達でしょ?」

 紫緒はただ唖然と彼女を見た。
 詠羅といい彼女といい、どうしてそんな勝手なことを言えるのだろう。
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