激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 嘉則は思いがけない言葉に驚いたものの、すぐに気を取り直した。
「千暁との縁談でございますか」

「そちらには多額の寄付をしているのだし、こちらとしても地縁を築くのは悪くない」
 決まったも同然、という態度で英智は言う。

「申し訳ございません。私にはお付き合いをしている方がおりますので、お断りいたします」
 千暁はすぐに頭を下げた。

「別れればいいでしょう。聞けば、以前はうちで事務をしていたとか。そんな一銭にもならない女より、うちの娘のほうが百倍いい。母親に似て美人でモデル経験もある。断るなら、今後は寄付をしないし氏子も辞める」
 英智は笑みを浮かべる。モデルは地域の雑誌に金の力で出させたものだった。

「寄付はけっこうですよ。氏子も義務ではございませんから」
 千暁は怒りとともに酷薄な笑みを浮かべる。美しい顔だけに、迫力があった。

「うちの寄付がなくなってもいいのか!」
「穢れは必要ありません」
「千暁!」
 嘉則は名を呼んでたしなめる。

「もういい! 行くぞ、詠羅!」
 激した英智が席を立つが、詠羅は未練がましく千暁を見る。
「待ってよ、なんであんなブスがいいの?」

 千暁は嫌悪で目を細めて言った。
(こく)(よく)せずして白し」
 鵠は白鳥のことだ。心が綺麗な人は飾らなくても内面の美しさが現れる、という意味だ。

「千暁!」
 嘉則がまた名を呼んで咎める。
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