激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「どういうこと?」
 詠羅は英智にたずねる。が、英智は答えない。知らないからだ。だが、侮辱を返されたことだけは理解した。

「行くぞ!」
 英智は詠羅を引っ張って事務所を出た。
 千暁は嘉俗に頭を下げる。

「申し訳ございません。我慢なりませんでした。寄付を失ったことは、ほかの策を考えます」
「言い方があるだろう、という話だ」

「やわらかく申し上げて通じる方々ではありますまい」
「だが」

「母を侮辱されたとき、黙っていられますか。冷静でいられますか」
 嘉則は渋面を作る。

 千暁は席を立った。
 嘉則はもう何も言わず、出て行く彼を見送った。

***

 午後、千暁は急な祈祷の依頼で外出した。
 建設工事をしていると古い井戸が出て来ることがある。埋め戻す場合、緊急で頼まれるのだ。御祈祷が終わらないと工事が進められない。

 彼と入れ違うように、氏子が数名と総代がやってきた。
 嘉則は社務所の応接で彼らの対応をした。

 紫緒がお茶を持って行くと、すでに話し合いが始まっていた。
 紫緒は静かにお茶を配る。
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