激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「ドリームパン工房の社長から、氏子をやめると連絡が来た。御子息との縁談を断られたのが原因だとか」
 総代の言葉に、紫緒はお盆を取り落とした。がらん、と大きな音響く。

「申し訳ございません」
 紫緒は慌ててお盆を拾う。

「寄付がなくなるのは痛いのでは?」
「夏祭りにVRアーティストを呼んだのも経費がかかるでしょう」
「ヴァーチャルでのお参りや電子御朱印帳、デジタル賽銭箱とか自動お焚き上げの電子お守りとか。企画はいいですが、予算は無限じゃないんですよ」
 氏子たちが口々に言う。

 詠羅と千暁の縁談があったなんて。それを断ったせいで寄付を失うなんて。
 紫緒は平静を装って頭を下げて退室する。
 その後は暗澹たる気持ちで仕事をこなした。



 仕事を終えた紫緒は、千暁に呼ばれて社務所に向かった。
 社務所に入ると応接ブースに案内され、座る。

「父から聞きました。私の縁談について紫緒さんが耳にしたと」
「……はい」

「お気になさいませんよう」
「でも」

「断ったのは私の意志です。それとも、お金のために私が結婚したほうがよかったですか?」
「いいえ」
 紫緒は慌てて否定した。
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