激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「あのとき恋人として紹介していただけたのはありがたかったですよ。非常に断りやすかったと驚きました。ありがとうございます」
 紫緒は千暁を見た。千暁はいつものように穏やかな笑みをたたえている。

「それと、あのときの女性のことですが」
 紫緒の胸がどきっと鳴った。優奈のことだ、とすぐにわかった。

「送検、起訴にはなかなか至らないものですね。警察の捜査は続いていますが、彼女は髪を切ろうとしただけと主張しているそうです。髪を切ったら巫女を続けられなくなると思ったそうです」

 髪の短い巫女のためのつけ毛は存在するので、髪はそれを使えばなんとかなる。
 だが、そうまでしてやめさせようとする執念が怖かった。

「やめたくなりましたか?」
 たずねられ、紫緒は首をふる。
 負けたくない気持ちが根底にあった。まだ自分はなにも成し遂げていない。

「くれぐれも、無理はなさらないでくださいね」
「はい。……少しはお役に立てたのでしょうか」
「かなり、ですよ」
 千暁の声は優しくて、胸に安堵が広がった。



 翌日は夏祭りの打ち合わせで律と大晴が社務所に訪れた。
 律は雅楽の代表として、大晴はVRイベントの演者として。

「いらっしゃいませ、阿辺野さん、宇槻さん」
 お茶を出しに行った紫緒は、彼らを笑顔で迎えた。
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