激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「阿辺野さん、ちゃんとごはん食べてますか?」
「毎日食べてるよ」

「お前ら知り合いかよ」
「はい。大晴さんもお元気そうで」
 家に送ったきりだった。連絡先も知らないから、元気な姿にほっとした。

「うるせ」
 ふてくされたように大晴が言い、紫緒は苦笑した。

「……仲良さそう」
「ちげーよ」
 律に言われ、大晴がぷいっと横を向く。

 がちゃ、とドアが開いて、美津子が入ってきた。
「私も参加させていただくわね。巫女舞保存会の参考になるかもしれないから」
 美津子はほがらかにそう言った。

「紫緒さん、千暁とデートには行ってるの?」
 聞かれて、紫緒は固まった。

 ここの一族はちょっとオープンすぎないだろうか。
 そもそも偽の恋人なので、デートなんていう発想がなかった。

「遠慮しなくていいのよ。千暁にはちゃんと誘うように言っておくわね」
「あの、いえ、失礼します!」
 紫緒は慌てて部屋を出た。
 顔が熱くて、恥ずかしくてたまらなかった。



 空き時間に拝殿で彩陽と舞の練習をした。
 拝殿には冷房がないので、すぐに汗まみれになる。
 四時近くになると、千暁が神饌(しんせん)を持って現れた。夕方の日供祭のためのものだ。

「もうそんな時間なのね」
 彩陽が言い、舞の練習は終了となった。
 千暁の隣には律と大晴がいる。
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