激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「なにするんだよ!」
 目を吊り上げる大晴に、律は静かに首を振った。
 それだけで、大晴は察した。律の気持ちを。

 そうして、自分の気持ちを自覚した。自覚してしまった。
 大晴は鼻に皺を寄せた。
 こんな気持ち、自覚などしたくなかった。

「――お前はそれでいいのかよ」
「いいとか悪いとかじゃないから」
 律は困ったように微笑し、首を傾ける。
 大晴は舌打ちしてそっぽを向いた。

 熱気を含んだ風が通り過ぎ、蝉がせわしなく鳴き続けていた。



 数日後。紫緒は千暁が運転する車の助手席に、緊張して座っていた。
 千暁はTシャツにジーンズという軽装だった。サングラスをかけた横顔がどうにもかっこよくて、紫緒はなんどもチラ見をしてしまう。

 偽装を信用させるためにもデートに行ってください。
 千暁に頼まれ、紫緒は断れなかった。

 いっそバレたほうが、とは思うものの、千暁と出掛けられる誘惑に勝てなかった。
 こんな不純な自分は、なおいっそう彼を穢してしまいそうだ。

 車はレンタカーだった。よくある国産のコンパクトカーだ。
「普段は車の運転はされないんですか?」
「普段はバイクですよ。祖母の影響かもしれません。車は神社の軽ワゴンだけですね」

 あの車か、と紫緒は神社の白い軽ワゴンを頭に浮かべる。この神社の車はナンバーが一一三八で、語呂合わせだ、と楽しくなったのを覚えている。
 お昼は一緒にファーストフードを食べた。
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