激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 普段は神主装束の彼が、軽装でハンバーガーを頬張るギャップに、胸がきゅんとなった。
 ファンの人たちはこんな姿を見たことないよね。

 優越感まで湧いて、じっと見てしまう。気づいた千暁が、ごくんと飲み込んでから紫緒に尋ねる。

「どうされました?」
「なんでもないです」
 まるで本当の恋人同士みたいだ。実際にはまったく違うのに。

 紫緒はポテトを口に入れた。塩気がきつくて、胸の奥までしょっぱくなった。



 千暁が連れて行ってくれたのは、富士山の南側にある浅間大社だった。御祭神は木花佐久夜毘売命《このはなさくやひめのみこと》だ。

 駐車場から赤い鳥居をくぐっていく。
 楼門も赤く、本殿も赤かった。

「ここはお宮が赤いんですね」
「徳川家康公が寄進したと言われています。正面は入母屋造(いりもやづく)りで――」
 言いかけて、千暁はやめた。

「すみません、つい。今日は普段のことは忘れて過ごしましょう」
 彼にとっても事件続きだった。たまには日常を忘れたいのかもしれない。とはいえ、訪れているのが神社なのだが。

「わかりました」
 紫緒が頷くと、千暁は笑みに目を細めた。
< 147 / 241 >

この作品をシェア

pagetop