激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
参拝を終えて千暁とともに駐車場に向かっていた紫緒は、最後にもう一度神社を見たくて振り返る。
青空の下の雄大な富士を背に、赤い社とのコントラストが素敵だ。
それを写真に収めようとスマホをかまえ、はっとした。
「雲が虹になってますよ!?」
紫緒が指を差すと、千暁は目を細めてそれを見た。
「彩雲ですね。富士山に彩雲がかかるのを見られるなんてとんでもない強運ですよ。彩雲は昔から瑞相とされています。紫緒さんは虹にご縁がありますね」
紫緒にはむしろ千暁こそが虹に縁があるように思える。
だけど、と紫緒は思う。
この前、虹は吉兆だと言われたが、現実には仕事を失った。巫女になったら、彩陽のストーカーに襲われたり、千暁のファンに髪をきられそうになったりした。
前に一緒に見たのは環天頂アークであり、逆さ虹。
幸運の転機が虹であるならば、逆さ虹はその逆なのだろうか。だからこそ、いろんな凶事が降りかかってきたのだろうか。
いや、現象に意味づけなんて無意味だ。
そう思いながらも不安を抑えきれず、紫緒はバッグから水晶を取り出した。
水晶の勾玉の中には、相変わらずの虹が閉じ込められている。
「いつもお持ちのようですが、それは?」
千暁がたずねる。
「私が小学生の頃、高天神社で神主の方からいただいたんです。あのとき、私は祖母を亡くしたばかりで、毎日が悲しくて」
紫緒は戸惑いながら、話し始めた。