激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 紫緒はまた涙を零した。
 言葉にしたことで悲しみが大きな波となって再来し、紫緒を飲み込んでしまった。

「どうして死んじゃうの? 死んだらどこへ行くの?」
 問われた彼は困ったように首をかしげた。

「人は死んだら神様になって、家族を見守ってくれるんだよ。だからおうちにいるよ」
 それは神道における死後観だった。

「嘘つき。お葬式だってしたし、お墓にいるんだから」
 言い返す紫緒に、彼はあっけにとられたようだった。

「お仏壇、家にある?」
「ない」
「神棚は?」
「ない」
 簡潔な紫緒の答えに、彼はしばし悩んだ様子を見せた。

「ちょっと待ってて」
 彼は言い置いて、立ち去る。
 紫緒はそのまま立って待っていた。

 だが、小学生の紫緒はすぐに退屈した。
 もう帰ってもいいかな。だいぶ待ったと思う。

 紫緒がそう思ったときだった。
 彼は息を切らせて走ってきた。
「お待たせ。これあげるよ」
 彼は勾玉の形の水晶を紫緒に差し出した。

「勾玉だよ。古代の日本で装飾品だったんだけど、呪術的な意味もあったらしい」
「まがたま。曲がってるから?」
 彼は苦笑した。
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