激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 ミカは不快さを隠さず詠羅を見る。
 嫌悪に細まった目にすら色気が漂い、詠羅は彼の気分を察することができなかった。

「不愉快極まる」

 うっとりしていた詠羅は、一瞬、なにを言われたのかわからなかった。
 数瞬遅れてきた理解に、彼女はむっと口を曲げる。

「なにがよ」
『低能な下衆が』
 ミカは母国語で呟き、侮蔑を詠羅に向けた。

 どうして自分が紫緒に好意を持っていると知っているのか。
 あのパーティーでハグをしていたからか。日本では挨拶のハグは一般的ではない上に、ミカは挨拶以上の気持ちをこめてハグをしていた。それが彼女にもわかったのか。
 だが、それは問題ではない。

「なぜこの女を通した」
 ミカは同席した秘書を日本語で叱責した。詠羅に聞かせるためだった。
 秘書は身を縮こまらせ、母国語でもごもごと言い訳を始める。断れない方からの紹介だったとかなんとか、とりとめがない。
 ミカがひと睨みすると、彼はびくっと口をつぐんだ。

「失礼ね!」
 詠羅は怒りに任せて立ち上がる。
「失礼で結構。二度と来るな」
「パパに言いつけるから! うちの会社で小麦を買わないわよ!」

「思い上がりも甚だしい。我が国にはなんの影響もない。むしろ困るのはお前たちだ」
 立ち上がり、ミカは言った。
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