激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「いただけません」
 紫緒ははずそうとするが、千暁が両手で彼女の手を包み込む。どきん、と鳴った心臓はいっきに鼓動を早くする。

「そうだとしても、今夜だけは」
 千暁の目が真剣に紫緒を覗き込み、紫緒は耐えられなくて目をそらした。こんなに見つめられたら、心臓がどうにかなってしまう。

「わかりました」
 あとで返せばいいだろうか。だが、レンタルでもあるまいに、返品などできないだろう。高そうなのに、どうして千暁はこんなものを用意したんだろう。

 しかもはめられたのは左手の薬指。特別な意味があるかのように思えてしまう。

「迎えが来るまで一緒に待ちます。変な男が現れるといけませんからね」
 茶目っ気を含ませて言う千暁に、紫緒はただ頷くことしかできなかった。



 紫緒は千暁とともに、神社の前で迎えを待った。
 大使館に行くなんて、ただでさえ緊張するのに。
 彼が隣にいて、緊張しないわけがない。

 紫緒は隣に立つ千暁をちらっと横目で見た。
 端正な顔にはあいかわらずの穏やかな笑みが浮かんでいる。

「一人で大丈夫なのに、申し訳ありません」
「仕事は片を付けてきましたから」
 紫緒はなおさら申し訳なくなった。

「むしろ紫緒さんの警戒心のなさが心配なんですよ」
「私、そんなに不用心ですか?」
 確かに最近いろいろあったが、それでも人並みの警戒心は持っているつもりだ。
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