激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「知っている人に対しての用心が足りません。特に男は信用してはなりませんよ」
「千暁さんも男性じゃないですか」
 紫緒が笑いながらつっこむと、千暁は困ったような微笑になった。

「私にも警戒したほうがいいかもしれません」
「千暁さんに限ってそんなことないですよ」

 山の奥に誰にも侵されることなく滔々と流れる清流のような彼。陽光は木々を緑を透かして届き、きらめく。その下を銀色に輝きながら流れるせせらぎ。人や動物に恵みを与えこそすれ、害するようにはまったく思えない。不遜を承知で神に例えるなら和魂だ。

 穢れなきその清流を警戒しなくてはならないなんて、想像もできない。

「その思い込みが危ないのですよ」
 千暁の顔から笑みが消えた。

「私とて男です。あなたが油断すればどのような行動に出るかわかりませんよ」
 その目が険しく光り、初めて自分に向けられた迫力に紫緒は気圧された。

 清流だった彼はいまや濁流のように怖ろしい。荒れ狂う流れはいっきに紫緒を襲い、飲み込んでしまいそうだ。

「あなたの幼馴染も男性なのですから、充分にお気をつけください」
「ミカは大丈夫です」
 紫緒は言い返す。

 千暁が彼をそんなふうに言うなんて、思いもしなかった。
「その油断が危ないと申し上げているのです」

 紫緒は困惑と怒りで、どう答えたらいいのかわからなくなった。
 いくら千暁でも、ミカのことは自分のほうがよく知っている。確かに外国の人だから日本人よりも距離が近いが、悪意などどこからも感じない。

「大丈夫ですから!」
 語気が強くなってしまい、紫緒は気まずくてうつむいた。
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