激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「余計なお世話ですね。申し訳ありません」
 千暁の謝罪が、紫緒の耳に痛い。
「いえ」
 ごまかすように答えると、あとは二人の間に沈黙が降りるのみだった。 



 黒い車が近付くのが見えたとき、紫緒はほっとした。これで気まずい時間から解放される。

「あの車でしょうか」
「それっぽいですね」
 千暁が言い、紫緒は頷いた。

 古めかしいヨーロピアンなデザインだった。長いフロントに丸いライトがついている。

 ナンバープレートは細長く、青くて驚いた。
 丸で囲まれた外の字に続き、ナンバーが書かれている。外が丸で囲まれているのは特命全権大使の公用車である証だ。続く数字は国の番号に続いて01と表示されている。基本的には大使の車は下二桁が01で、02より大きな数字は大使館関係者である。

 到着した車の後部座席からミカが降りてきた。
「お待たせ。ドレス、すごく似合ってる」
 ミカは笑みに目を細めた。

「ありがとう」
 紫緒は照れてうつむく。
「お見送りご苦労様」
 ミカは挑発的に千暁に言う。

「無事に送り帰してくださると信じていますよ」
 千暁は穏やかな笑顔で返す。
 ミカは答えず、口元を歪めて笑う。

 男たちの間に漂う緊張に、紫緒はただおろおろとしていた。
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