激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない



 車に乗ってすぐ、ミカは紫緒の左手を見咎めた。
「その指輪は?」
「千暁さんが魔除けにって」
「魔除けね。こんなんじゃ役に立たないよ」
 ミカは嘲るように口を歪めて笑う。

 紫緒の手をとり、するりと指輪を抜き取ってしまう。
「ダメよ、返して!」
「もっといいものをあげるから」
 ミカはポケットをさぐり、ケースを取り出す。それを開けると、有無を言わさず紫緒の左手の薬指に指輪をはめた。

「君のために取り寄せたスターエメラルドだよ。しかもノンエンハンスメント」

 紫緒は眉を寄せて美しい緑の宝石を見た。真ん丸のカボションカットだった。光を受けて、十字のスターが輝く。その周囲にはダイヤが取り囲み、土台はプラチナのようだった。

 濃い緑なのに透明度が高く、内包物が少ない。それだけでもエメラルドとしては貴重なのだが、さらにアステリズム効果で十字のスターがある。

 猫目のような輝きの出るシャトヤンシー効果のエメラルドも貴重だが、比較にならないほどスターエメラルドは貴重だ。何十年という経験豊富なバイヤーでもなかなかお目にかかれない。

 ノンエンハンスメントとは無処理という意味だ。通常エメラルドは加工処理をして出荷される。無加工で出荷できるのは十万個に一個と言われており、ルビーやダイヤモンドよりも高額で取引される。この場合、加工はカット以外を指す。

 紫緒にはそれらの知識がない。何千万円もするというこもは知らずとも、とにかく高そうだ、ということだけはわかった。
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