激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「もらえないわ」
 外そうとする紫緒の手を、ミカはぎゅっと握った。
「君だからこそ持っていてほしいんだよ。お願い」
 千暁と言いミカといい、なんだかおかしい。

「……じゃあ、今日だけお借りするね。さっきの指輪も借り物だから返して」
「あとでね」
 ミカは紫緒の手を持ち上げ、ちゅっと口付けた。

「ミカ!」
 咎める紫緒の顔は赤い。
 ミカはふふっと笑い、大使館に着くまで紫緒の手を離さなかった。



 ラトメニア大使館は白い瀟洒(しょうしゃ)な建物だった。
 車で門の中に入ると、そのまま玄関の前に横づけされる。
 車を先に降りたミカがドアを開けてくれて、紫緒はその手をとって車を降りた。

 まるでシンデレラだ。
 シンデレラと違って、硝子の靴でもカボチャの馬車でもないし、王子様はダンスより前にもう目の前にいるのだが。

「行こうか」
 ミカに手を引かれ、紫緒は館内へと足を踏み入れた。
 大使館はどこもかしこも豪奢で、紫緒はため息をもらすばかりだった。

 大理石の玄関ホールは広々としていた。奥に掲げられた油絵はミカの祖国の出身で世界的に有名な画家の作品だ。その隣には女神の白い彫刻が慈愛の笑みを浮かべて紫緒たちを見下ろしている。

 続く廊下の壁は白く、同色の花綱装飾があった。ブラケットライトは花を象っている。
 絨毯はベージュを基調とした幾何学模様だった。
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