激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「横になるといいよ」
「ちょっとだけ。ごめんね」
 紫緒は靴をぬぎ、ベッドに横になる。
 彼女に布団をかけたミカは、そっと彼女の頭を撫でる。

「僕が戻るまで待っててね」
「ありがとう」
 ミカはにこっと紫緒に笑う。

『二度と離さない。僕がずっと守る』
 母国語で言われたそれを、紫緒は首をかしげて聞いていた。

***

 千暁は苛立つ自分と戦いながら木刀を振るう。

 おかしい。帰るのが遅すぎる。
 額を伝う汗を拭いもしない。
 冷静になれ、と自分に命じるものの、一向に心は落ち着かない。

 時計はとうに十二時をまわった。
 無事に帰してくれると信じていますよ。
 千暁の言葉に、ミカは答えなかった。
 気になったが、そんな理由で行くのをやめてくれと言えるわけもなく、見送るしかなかった。

 帰るのが遅くなったからと言って連絡を入れる仲でもない。恋人は偽装で、だから普段は連絡を取り合っていない。

 もどかしい。
 千暁はまた木刀を振るう。

 自分の警告を、紫緒はまったく理解していないようだった。
 あの美しい外交官こそ危ないだろう。見るからに危険であれば近付かない。が、美しい外見や優しい態度にこそ人は騙される。棘があるとわかっていても薔薇に手を伸ばすように、わかっている危機があっても近付くことさえある。

 午前零時を過ぎても紫緒が帰る気配はなく、千暁はなおさら不安にさいなまされた。
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