激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 虹水晶のほうが小さくて落ちそうなのに、これはちゃんと中に入っていた。
 とにかく探そう。
 外に出ようとすると、ラトメニア人の警備員に押し戻されてしまった。
 迂闊にうろうろされると困るのだろう。

 諦めてベッドに腰掛ける。
 サイドテーブルには開いたままのジュエリーケースがあり、昨日のエメラルドの指輪が入っていた。
 日本の雑誌がテーブルに用意されていたので、それを見て時間をつぶした。

***

 昼の休憩でスマホを確認した千暁は、知らない番号からのメッセージに顔をしかめた。
 嫌な予感がする。

 昨夜は結局、紫緒は帰らなかった。
 朝になって代理を名乗る人物から神社に欠勤の連絡が来た。電話をとったのは母で、大丈夫かしら、と心配していた。

 千暁はメッセージをタップする。
『紫緒は帰りたくないそうだ。君はもう用済みだ』
 ミカからだった。

 彼女はなにごとも一生懸命だった。こんな中途半端で投げ出さないだろう。弱音をきちんと吐ける彼女が、人伝いにこんなことを言うとも思えない。

 千暁は立ち上がった。
 父である宮司に急用だと告げ、返答も待たずに家に帰る。
 すぐに私服に着替え、車庫に向かう。
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