激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 そこには千暁の愛車があった。レーサーレプリカタイプのバイクで、メタリックな青いボディが鮮やかだった。

 スマホにナビをセットしてバイクにとりつけ、ヘルメットを被り、爆音とともに走り出した。
 勢いで飛び出した千暁だったが、なにも目算などなかった。

 ラトメニア大使館に着くと、ミカへの面会を求めた。
「お約束のない方との面会はできかねます」
 受付は流暢な日本語で答えた。
 千暁は失敗を悟った。バイクで、しかも私服だ。せめてスーツならばもっとまともに応答してもらえたかもしれないのに。

「大使とは個人的に面識があります。面会させてもらえませんか」
「それなら個人で連絡をお取りください」
 受付はにべもない。

「大使のところにいる女性との面会は」
「そのような方はいらっしゃいません」
「しかし」
「警察を呼びますよ」

 これ以上の問答は無意味だ。ほかの手を考えなくてはならない。
 千暁は苦いものを噛み締め、踵を返した。

***

 お昼になって、ミカが昼食をとるために戻って来た。
 紫緒はほっとしてミカを見る。
 知らない場所に一人きりで不安だった。
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