激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 本人と連絡がとれない以上、彼女の意志であるとは思えなかった。ミカのメッセージに返信しても、なにも音沙汰がない。

 相手が外交官というのが痛い。
 千暁は仕事の関係で警察にも伝手はあるが、大使館も外交官公邸も治外法権で警察は踏み込めない。ただでさえ警察は事件性がわからないと動きが鈍い。

「お前、どうしたんだ」
 会うなり宮司に言われ、千暁は答えに窮した。
「まあいい、打ち合わせに間に合って良かった」

 言われて思い出す。
 今日は夏祭りの打ち合わせで律と大晴に会う予定になっていた。
 とうてい集中できそうにないのだが。
 千暁は悄然(しょうぜん)と事務所に向かった。



 事務所にはすでに律と大晴が来ていた。
「お待たせして申し訳ございません」
 千暁は頭を下げ、席に着く。
 祭り当日に使う楽曲やその日の流れを確認していくのだが、千暁は上の空だった。

「……千暁、なにかあった?」
 律に聞かれて、千暁は首を振る。
「だけど、元気ないよ」
「夏バテかな」
 千暁は微笑を浮かべる。

「今日はあいついないのかよ。紫緒とかいう巫女」
 大晴がそわそわと言う。
 千暁は黙った。答えようがなかった。
< 177 / 241 >

この作品をシェア

pagetop