激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「大使館に行くだけならな。あいつらしょっちゅう外交パーティーやってるから」
「俺もやってみる。オーケストラと共演したとき、ラトメニアの人と知り合ったから」
 律が言う。

「感謝します」
 千暁は深々と頭を下げた。
 大晴は照れ臭そうに鼻を鳴らし、律は緊張で顔を強張らせていた。



 今の自分にできることはなにもない。
 仕事を終えた千暁は古武術の基礎を行い、今日は木刀ではなく真剣を振るった。

 体術の訓練よりも木刀を振るった方が雑念を払いやすかった。それが真剣ならなおさらだ。

 思い返すのは紫緒との最初の出会い。
 かつては漠然と神主を目指していた。父の希望でもあり、その思いを継ぎたかった。

 高校生になった千暁は迷った。
 神など実際にはいないだろう。なのに神主になるのは人を騙すことにはならないか。

 当時、泣いている小学生の紫緒を見たとき、どうしようかと思った。
 見なかったふりをしようか。

 が、それはできなかった。
 困っている人を見捨てる自分を神は許さないだろうと思った。
 結局のところ、神を身近な存在として育った彼には、神はいないと断言はできず、影響は抜けきれない。

 声をかけると、彼女は祖母を亡くしたのだと泣いた。
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