激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「あれ、天社さん」
 軽い声がして振り返ると、二人の男性がいた。
 一人は四十を過ぎていそうだったが、もう一人は二十代半ばほどのようだった。髪が真っ青で、この会場の誰よりも目立っていた。

「こちらでお会いするとは」
 千暁はそつのない笑顔を彼らに向ける。
「紫緒さん、こちらはムーサ・アーティストプロダクションの方です」

「初めまして、浮田弘文(うきたひろふみ)です」
 四十代の男が名刺を差し出して言う。
「初めまして」
 名刺を受け取ると、彼は隣にいた青年の紹介を始める。

「こちらはわが社の売り出し中のVRアーティストで、宇槻大晴(うづきたいせい)です。よろしくお願いします」
 紹介された大晴は不機嫌そうにそっぽをむいていた。タブレットを抱えていて、腕にはスマートウォッチがあった。
「こちらこそ、今度のイベントではお世話になります」
 千暁が頭を下げるので、紫緒は首をかしげた。

「神社の夏祭りでイベントを予定しているのですよ」
「そうなんですね」
 VRアーティストがなんなのか紫緒にはわからないので、どんなイベントなのかも想像がつかなかった。

「めんどくさっ」
 大晴がぼそっとつぶやくと、マネージャーは肘で彼をつついた。
「では、この辺で」
 取り繕うようにマネージャーが彼を連れて行く。
< 18 / 241 >

この作品をシェア

pagetop