激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「今すぐ帰るなら許してやる」
「紫緒さんを返してください」

「お前のものじゃない」
「あなたのものでもありません」
「国際問題にしてやるぞ」
 ミカが口の端に笑みを浮かべる。

「やれるものならどうぞ」
 千暁は挑発で返す。
「見くびられたものだな。たかをくくっているなら後悔するぞ」

「それでも彼女を渡すことはできません」
「お望み通り、日本政府に厳重に抗議してやる」

「千暁さん! ミカ!」
 紫緒がもがく。が、警備員の壁を突破することができない。
 ミカのスマホが鳴り、彼はそれに出る。

「お前のツレも捕まった。大人しく出て行けば罪には問わないでやる」
 千暁はぐっと言葉に詰まった。
 紫緒は青ざめていた。状況を悟ったのだろう。

「千暁さん……私は大丈夫だから」
 紫緒はひきつった笑みを浮かべていた。

「彼女もこう言ってる。帰れよ。それとも警察を呼ぶか。どちらにしろ出て行くことになるんだけどね」
 ミカは冷徹に言い放つ。

「必ず助けます」
 千暁は紫緒の目を見て断言した。
 紫緒の潤んだ目に、千暁の胸が痛む。
< 187 / 241 >

この作品をシェア

pagetop