激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「紫緒、戻って」
 ミカの言葉に、紫緒はためらうように扉を閉じた。

 千暁は後ろ髪をひかれつつ、一歩を出す。
 ミカが顎をしゃくって警備員に合図を送ると、彼は千暁を連れて歩き出す。

 ミカは勝ち誇った笑みを浮かべ、後ろ姿を見送った。

***

 千暁さんが来てくれた。
 私は彼の警告を無視して、だからこうなったのに。
 部屋に戻された紫緒は、泣きそうにドアに寄り掛かる。

 どうにかしないと。
 ため息をついて、バッグから虹水晶を取り出す。
 祖母が亡くなったとき、彼が励ましてくれて、それで気持ちを立て直すことができた。

 ふと、祖母が言っていた言葉を思い出す。
 天は自ら助くるものを助く。
 直後、衝撃を受けたように立ち上がる。

 ああ、もう。
 紫緒は自分に苛立つ。
 どうしてそれを忘れてしまっていたのか。

 ミカに騙されたショックもあったが、頑強な警備員にすっかり気圧されていた。逃げられないのだと、あきらめてしまった。千暁は自身を省みずに助けに来てくれたのに。

 紫緒は虹水晶をぎゅっと握った。
 今夜はパーティーが行われ、そちらに警備の人手を取られている。

 千暁は連れ出されたばかりで、警備は一人が残るのみ。
 ミカはどうやらパーティーに戻った。
 このタイミングで逃げ出そうとするなど、彼らは思いもしないだろう。

 チャンスは今しかない。
 紫緒は深呼吸して、行動に移した。
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