激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない

***

『そこでなにをしている!』
 ミカの秘書は不審な女を見咎め、英語で言った。
 女は振り向いた。

 日本人だ、とすぐに気がついた。
 先日追い出した女と同じに見える。が、彼には日本人はみんな同じ顔に見える。
 今日はレセプションで多数の日本人が出入りしている。が、客ではなさそうだ。
 女の服は上質そうだが普段着で、全身から緊張が漂っている。

 女が日本語でなにかを言った。
 彼は日本語がわからない。
 女が大使の愛称を口にしたため、顔をしかめた。

「あい うおんとぅー みーと ミカ」
 英語のつもりらしい。どうやら大使に会いたいようだ。

 日本人男性に侵入され、激しく叱責されたばかりだ。
 その前にも招待状持参の女を部外者だと言われ、怒られた。

 大使は外交の相手には柔和に見せているが、中身は有能で冷酷だ。
 でなければ軍事政権下であの若さで外交官として活躍できるわけもなく、民主化のどさくさに紛れて全権大使になりおおせるわけがない。

 モデルもかくやという外見で、女性につきまとわれることはよくあった。
 この女もそうなのか。とにかく部外者には違いない。今日だけで二度目になってしまう。知られたら即時解雇もありうる。そうなれば人生がご破産だ。娘は学生で、まだまだお金がかかる。

『今すぐ出ていけ!』
 彼は女に命じる。
 女は首をかしげた。
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