激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 空にはすでに夜の(かげ)りがあった。
 傾いた陽に浮かぶ神社は人を寄せ付けない荘厳さが漂う。

 社殿を構成する木材は古く黒味を帯び、過ぎた年月の重さを示しているかのようだった。
 七月の空気は常に熱をはらみ、じっとしていても汗が浮かぶ。

 少し離れたところでは水色の袴の神主がなにかの作業をしていた。

 彼女はそれを横目に見ながら舗装された白い参道を歩み、手水舎(てみずや)で手を清めてから拝殿の前でお賽銭を入れて二礼二拍手をして手を合わせた。

 陸里(くがさと)紫緒(しお)です。二十五歳の会社員です。住所は……。
 自己紹介をしてからお願いを心の中で言う。自己紹介をしたのは、そのほうがいいと聞いたことがあったからだ。

 お願いをしてから深々と頭を下げると、胸まである長い黒髪が揺れた。

 彼女が来た時点でもう参拝時間を過ぎていた。
 門前には夏は午後五時まで、と書かれていたのに、彼女が鳥居をくぐったのは六時半過ぎだ。

 本日の神様は営業終了。
 そんなことを思ったが、お参りせずにはいられなかった。

 神頼みでなんとかなることじゃないけどな。
 憂鬱な気持ちでベンチに腰掛けると、もう動く気力がなくなった。

 会社でのできごとがぐるぐると頭を回る。
 解決法なんて思いつかない。

 だから気休めであっても神様にお願いにきたのだけど。
 だけど神様にしてみたら私の悩みなんてとるにたらないちっぽけなことで、見向きもされないんだろうな。

 神様はどうやって願いをかなえる人を選んでるんだろう。
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