激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 かわいい紫緒の年を数えて過ごした。思春期になったミカは、彼女はさぞ魅力的に成長しているだろうと想像した。
 いつだって記憶の中の紫緒はミカを慕い、離れない。

 穏やかな癒しはいつしか激しい恋情へと変容した。
 彼のおかれた過酷な環境は、その愛に歪さを宿して成長させるには充分だった。

「紫緒が行く先は一つ」
 見つからないまま朝を迎えたミカは、公用車で公邸を出た。

***

 ろくに眠れない夜だった。寝不足の目に朝日が痛い。
 そのまま起きて神主の装束を身につけたとき、千暁のスマホが鳴る。

 早朝の連絡に険しい目を向けた。すぐさま家を出る。
 境内に着くと、スーツを着た金髪の男性――ミカがいた。

「どうしてここに。紫緒さんは」
 尋ねると、ミカは千暁をにらんだ。
「来てないのか」
 千暁は悟る。つまりは紫緒が逃げ出し、行方がわかっていないのだ。

 夜道には危険がつきまとう。通りすがりに男に襲われるかもしれないし、事故の危険も増える。
 タクシーを使ってくれたら良かったのにと思うが、おそらく支払うものを持たず、それを避けたのだろう。千暁たちに借りて支払うなど他人をあてにするとは思えない。

「――話はあとです。紫緒さんを探しましょう」
「話が速いな」
 ミカは皮肉な笑みを口の端に浮かべた。自嘲でもあった。
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