激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「警察には」
「言ってない」
 返事に千暁は顔をしかめる。
 外交官からの要請ならば警察もすぐに動くだろうに。

「僕は彼女にとっては他人だ。捜索願は出せない。それに大使公邸から行方不明者を出すなんて、国の威信に関わる」
 ミカは悔しそうに言った。

「そういうことを言っている場合ですか!」
 逃げ出したなら連絡手段もお金も持っていないに違いない。連日の猛暑に熱帯夜だ。飲料を買えなければ熱中症で倒れることもありうる。

「警察に言います。あなたのことは言いませんから」
 千暁は警察に連絡した。

 回答は以前と同じだった。事件性がないから捜査ができない、と。
 夜間の事件事故に紫緒に該当する女性がいないことがわかっただけでも収穫と思うことにした。
 千暁はさらに、律と大晴に連絡を入れた。
 今は少しでも人手が欲しかった。

***

 出勤の途中、麻耶はふと覗いた境内にSSR神主を見つけた。外国の人となにかを話している。

 あの水晶、今届けたほうがいいかな。こんな綺麗なもの、きっと大切に違いない。
 だが、ここで境内に入っては一日に一度のルールを破ってしまう。
 葛藤した。
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