激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「今日はまたどうして」
「お嬢さんに招待されまして。正確には招待されたのは彼女ですが」
 千暁に言われ、英智の目が紫緒に向く。
「いつもお世話になっております。事務の陸里です」
 紫緒は頭を下げた。

 詠羅の父ということはすなわち社長だ。ここで会うことになるなんて。いや、会社のパーティーなのだから社長のことを失念していた自分が迂闊だ。詠羅ばかりを気にしていてほかに気が回っていなかった。

「そうでしたか。今日は楽しんでいってください。詠羅、行くぞ」
「はーい」
 詠羅はぎりっと紫緒を睨むと、英智についていった。斗真もそのあとに続く。
 彼らが人ごみに消えると、ようやく紫緒は息をついた。

「社長とお知り合いだったんですね」
「ドリームパン工房の方は先代からお付き合いがありますから」
 まったく動揺を見せずに千暁は言う。
 すごいな、と千暁は素直に感心した。

「天社さんって何歳ですか?」
「千暁ですよ。二十九歳です」
 訂正されて、紫緒はうろたえた。本当に名前で呼ぶなんていいのだろうか。

 それに、自分と四歳しか違わないことが驚きだった。自分ならこの落ち着きをあと四年で獲得できるとは思えない。
 はあ、とため息をついた紫緒の目に、一人の外国人の姿が映った。

 背の高い美しい青年だった。歳は三十前後だろう。金髪はなめらかそうで、整った顔は芸術家が細心の注意を払って彫り上げた彫刻のよう。白い肌が白磁のようで手足が長く、モデルのようだ。
 振り向いた彼は紫緒を見て驚いた。
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