激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 常人が行ってもこうはならない。鍛え上げた彼ならばこその技だった。
 千暁はそのまま流れるように隣の男の顎へ掌底をくらわせる。男は脳震盪を起こし、一撃で倒れた。
 脳震盪は場合によっては後遺症が残る。あまり使いたくない手ではあった。

 だが、多勢に無勢だ。相手の戦力を削ぎ、戦意を喪失させるためでもある。
 事実、一撃で仲間が倒れるのを見た彼らは動揺し、立ち止まっている。

 千暁は横目でちらりとミカを見る。
 律たちに襲い掛かる男を制し、見事な体術で相手を翻弄していた。

 システマだ、とすぐに気が付いた。
 システマはロシアの格闘術だ。かつてラトメニアはソ連の支配下にあったので、その影響で軍に導入していた。

***

「嘘だろ」
 竜介は呆然とその光景を見ていた。
 武器を持った仲間が、素手の男二人に次々とやられている。一人はスーツ、一人は袴。まったくケンカに適した服装ではない上に、弱そうだった。なのに、仲間は倒れる一方だ。

 竜介は車に戻り、紫緒を見る。脱力していて動きそうにない。
 竜介は助手席のドアを開け、ダッシュボードを漁る。

「これがあれば」
 黒光りする銃を手に、竜介はにやりと笑った。
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