激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「喉乾いた。売店に行く」
 大晴はくるっと背を向けた。その耳が赤い。
「俺も行ってくる」
 律が言い、二人は出ていった。

 残された紫緒はにわかに緊張した。
 千暁の前で横になっているのが無防備に思えてならず、かといってどうしたらいいのかもわからない。

「本当に無事で良かったです」
 千暁は深く息を吐いた。
「あなたが助けに来てくれたからです」
 紫緒は答える。
 まるで天祐だ。神がすべてを見通すかのように見つけ出して助けに来てくれた。

「あなたの日頃の行いが良いからでしょう。よく言うではありませんか。お天道様が見ている、と」
 千暁が穏やかに言う。

 天は自ら助くるものを助く。

 頭に言葉が閃き、紫緒は衝撃を受けた。

 ああ。
 紫緒は悟った。
 天は助けてくれた。

 天は、空にいて人を見ている「神」じゃない。
 人の心に存在している。
 私の周りにいる、この人たちだ。

 紫緒の目が潤む。
 にじんだ視界に、千暁があたたかく微笑んでいた。
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